逸失利益の計算方法とポイント

- 逸失利益が示談金増額のカギ!
逸失利益は、後遺障害等級の認定を受けると請求できる補償のひとつです。実は、逸失利益は示談交渉で金額が大きく増えるケースがあり、慰謝料よりも重要視することも多い項目です。
正しい金額を受け取るために、逸失利益が支払われるケース、計算方法などを確認していきましょう。
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逸失利益とは?
- 逸失利益は将来の収入減を補償
- 後遺障害等級の認定がないと請求できない!

交通事故で後遺症が残ると、痛みが残ったり、動作が制限されてしまったりして事故以前の同じように働けない可能性があります。
仕事に支障が出ると、給料が減る、昇進が望めなくなるなど、将来の収入にも影響してしまいますよね。
このような、交通事故が原因でもらえなくなった将来の収入を、逸失利益として請求することができます。
逸失利益と休業損害の違い

逸失利益に似た補償で休業損害があります。
どちらも収入減に対する補償ですが、休業損害は交通事故当日から症状固定の日(治療の終了日)まで、逸失利益は症状固定日以降の収入減に対して支払われます。
逸失利益は全員請求できる?

逸失利益を請求できるのは、後遺障害等級の認定を受けた人です。
ケガが完治した人、後遺症が残っていても後遺障害等級の認定を受けていない人は、逸失利益を請求できません。
また、後遺障害が残ったことで転職をした、部署異動があった、昇給を期待できなくなったなど、収入への影響が想定される場合に請求できます。
後遺障害が仕事にまったく影響しない場合は、支払われない可能性があります。
- ミスターリードの
かんたん解説 - 後遺障害で家事ができなくなった場合、専業主婦も逸失利益の請求が可能です。
保険会社は、主婦の逸失利益をなかなか認めないこともありますので、粘り強く交渉しましょう。
将来の収入減を今請求するのはナゼ?

示談をする際は「今後は請求しない」と約束するのが一般的です。
そのため、将来、後遺障害が原因で退職をしたとしても、その際に逸失利益を請求することは原則としてできません。
損害が発生する度に請求していたらキリがありませんし、お互いにとても大変です。
逸失利益が重要な理由
- この先数十年の生活に関係するお金
- 収入や年齢で金額が変わる
- 保険会社が提示する金額は低い

逸失利益が重要な理由、ひとつ目は対象期間の長さです。
入通院慰謝料や休業損害など、治療中の損害に対して支払われるお金の対象期間は長い人でも1〜2年程度。
いっぽう、後遺障害に対して支払われるお金は対象期間が数十年になることも珍しくありません。
この先、数十年間の生活に関係するお金ですので、しっかりと考えなくてはいけませんよね。

つぎに逸失利益の金額が決まる判断材料を見ていきましょう。
同じく後遺障害が残ったことに対して支払われる後遺障害慰謝料と比較すると、逸失利益の重要性がわかります。
上の図のように、後遺障害慰謝料は後遺障害等級だけで金額が決まりますが、逸失利益は、後遺障害等級、後遺障害が影響する期間、事故以前の収入など、金額を決める材料がたくさんあります。
そのため、後遺障害等級が同じでも期間の長さや収入の違いで個人差があり、「この場合はいくら」とかんたんに決めづらいです。
適正な金額の逸失利益を受け取るには、一人ひとりの事情を考慮し、正確に計算する必要があります。
- ミスターリードの
かんたん解説 - 後遺障害慰謝料には相場があり、後遺障害等級が決まれば金額の目安を立てやすいのですが、逸失利益には相場がないため、被害者自身では、金額の目安がわかりづらいことが多いです。
3つ目のポイントは、逸失利益は将来の収入減を補償するお金だということです。
将来のお金なので、示談交渉の時点で正確な損失額はわかりません。
だから、保険会社と意見の食い違いが起こります。
保険会社は提示する逸失利益が金額が低いことが多く、中には、事故被害者の収入などを考慮せず、保険会社が決めた一律の金額を提示されることもあります。
逸失利益をきちんと受け取るには、適正な金額を自分たちで計算し、示談交渉で主張して増額を認めてもらわなくてはいけません。
ミスターリードからあなたへ
示談金では慰謝料を気にする人が多いですが、後遺障害等級の認定を受けた場合は、逸失利益の金額にもこだわるようにしてくださいね。
つぎは、正しい金額を知るために必要な逸失利益の計算方法を確認していきましょう。
逸失利益の計算方法
- 1年間の損害額は後遺障害等級で変わる
- 影響を受ける期間は67歳ー年齢

逸失利益の計算には、「1年間の損害額×影響を受ける期間の係数」という計算式を使います。
聞きなれない言葉が出てきましたので、計算式を深掘りしていきながら確認していきましょう。
1年間の損害額はどう計算する?

1年間の損害額はこの計算式で算出します。
基礎収入は「事故前の1年間の収入」です。
過去1年の年収が400万円の人は、基礎収入は400万円になります。
労働能力喪失率は、後遺障害が仕事にどの程度影響するのかを数値化したもので、後遺障害等級ごとに基準値が決まっています。
労働能力喪失率表
等級 | 労働能力喪失率 | 等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
第1級 | 100/100 | 第8級 | 45/100 |
第2級 | 100/100 | 第9級 | 35/100 |
第3級 | 100/100 | 第10級 | 27/100 |
第4級 | 92/100 | 第11級 | 20/100 |
第5級 | 79/100 | 第12級 | 14/100 |
第6級 | 67/100 | 第13級 | 9/100 |
第7級 | 56/100 | 第14級 | 5/100 |
基礎収入400万円の人が後遺障害12級の認定を受けた場合、労働能力喪失率は14%(14/100)なので、1年間の損害額は「400万円×14%=56万円」となります。
- ミスターリードの
かんたん解説 - 後遺障害が仕事にあまり影響しない場合、保険会社が上の表より低い労働能力喪失率を主張してくることがあります。
反対に、後遺障害が仕事に大きく影響するため、上の表では釣り合わない場合もあります。このようなケースでは、示談交渉で労働能力喪失率の変更が認められる可能性があります。
より詳しく知りたい方はこちら
影響を受ける期間、係数とは?

「影響を受ける期間の係数」は、まず期間(年数)を知り、そのあとに係数を確認します。
影響を受ける期間のことを専門用語で「労働能力喪失期間」と言います。
労働能力喪失期間は原則として「症状固定日」から67歳までです。
30歳で症状固定を迎えた場合、67歳までの37年間が労働能力喪失期間となります。
また、67歳以上の方、67歳に年齢が近い方は「平均余命×1/2」という計算式で決めることもあります。
労働能力喪失期間が決まっても、そのまま計算には使いません。
期間中にお金が増えることを想定し、その分を差し引きます(これを「中間利息控除」と言います)。
なぜ、利息を差し引くの?

上の図のように、受け取った逸失利益を預金や投資で上手に運用すれば利息や利益を得ることもできます。
逸失利益や慰謝料を元手にお金を増やすこと自体は問題ありません。
ただし、交通事故にあわなかった場合と交通事故にあった場合で受け取る金額が公平になるように、想定される利息を差し引いて逸失利益を決めることになっています。
でも、実際に1年毎に利息分を計算するのはとても大変です。
そこでライプニッツ係数が登場します。
ライプニッツ係数は、お金を前倒しで受け取った場合に、将来の利息をあらかじめ控除するための数値です。
年単位で係数が決まっているので、決定した労働能力喪失期間をライプニッツ係数に当てはめることができます。
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かんたん解説 - 中間利息控除が行われることに納得できない人もいるかもしれませんが、控除を拒否するのは難しいです。
その分、労働能力喪失期間や労働能力喪失率などをきちんと交渉していきましょう。
ライプニッツ係数の一例
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1年 | 0.971 |
5年 | 4.580 |
10年 | 8.530 |
15年 | 11.938 |
20年 | 14.877 |
25年 | 17.413 |
30年 | 19.600 |
35年 | 21.487 |
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かんたん解説 - ライプニッツ係数は交通事故の発生日が2020年4月1日以降と2020年3月31日までで異なります。ここでご紹介しているのは2020年4月1日以降の事故に適用される係数です。
そのため、ほかのWebサイトや保険会社の説明と数値が異なることがあります。
労働能力喪失期間が10年だった場合のライプニッツ係数は8.530。
この数値が「影響を受ける期間の係数」になります。
なお、ライプニッツ係数の1年ごとの数値は国土交通省のWebサイトで閲覧することができます。
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逸失利益を計算してみましょう


Dさんの場合、後遺障害9級で労働能力喪失率が35%、労働能力喪失期間22年でライプニッツ係数は15.937となり、計算式に当てはめると逸失利益は約2500万円となりました。
いっぽうのKさんは主婦で収入がないため、「賃金センサス」という統計表で基礎収入を決め、後遺障害14級のため労働能力喪失率は5%になりました。
労働能力喪失期間は34年でライプニッツ係数は21.132になり、計算式に当てはめると逸失利益は約400万円になりました。
2人の計算例で注目して欲しいのは「1年間の損害額」です。
Dさんは「450万円×35%=157万5千円」、Kさんは「377.82万円×5%=18万8910円」と大きな金額差があります。
基礎収入の違いもありますが、それ以上に労働能力喪失率の違いが大きく影響しています。
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労働能力喪失率は後遺障害等級で変わりますので、適切な逸失利益を受け取るためには後遺障害等級の認定結果が大切になってきます。
つぎは、保険会社とトラブルになりやすいケースをご説明します。
トラブルになりやすいケース
- むち打ちは逸失利益の期間が短くなる
- 顔の傷跡では逸失利益が認められない?
むち打ちは逸失利益の金額が低い?

むち打ちは、同じ等級のほかの後遺障害に比べて労働能力喪失期間が短く計算される傾向があります。
むち打ちの場合、後遺障害が残ったとしても、年月を重ねることで症状に慣れたり回復したりするので、ずっと後遺障害が影響するわけではないと考えられているからです。
「67歳−年齢」で計算せず、後遺障害12級なら最長で10年程度、後遺障害14級なら最長で5年程度と、後遺障害等級で労働能力喪失期間が判断されることが多いです。
顔の傷では逸失利益は認められない?

外貌醜状(顔の傷痕)では、体に不自由がないことを理由に、後遺障害等級の認定を受けても保険会社が逸失利益の支払いを認めないケースもあります。
しかし、接客業や営業職をはじめ、人と接することが多い仕事は顔に傷跡が仕事に影響する可能性が考えられますよね。
このような時は、示談交渉で顔の傷跡が将来の仕事にどう影響するか具体的に主張していくことが大切です。
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かんたん解説 - 保険会社の主張に納得できないときは、増額や支払いを認めてもらえるよう、根気よく示談交渉を行いましょう。
逸失利益の増額は難しい交渉となりますので、弁護士に相談することをオススメします。
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むち打ちも外貌醜状も、逸失利益の金額は低くなりやすいですが、保険会社の提示金額よりは増額できる可能性があります。
つぎは職業別で見た逸失利益請求のポイントを解説します。
職業別、逸失利益請求のポイント
- 会社経営者は基礎収入の計算が複雑
- 学生、子どもも逸失利益を請求可能

会社経営者、主婦、学生、高齢者など職業によって逸失利益を請求する際のポイントが変わります。
会社経営者・役員
基礎収入の金額がポイントになります。
役員報酬の金額をそのまま基礎収入にするとは限りません。
役員報酬のうち、利益配当は基礎収入に含まず、さらに、会社の規模や役員の業務内容などを踏まえ、基礎収入の金額を決めます。
主婦
専業主婦は、「収入がないから逸失利益は必要ない」と保険会社に言われることがあります。
しかし、家事に影響していれば専業主婦にも逸失利益は支払われるものです。
この場合、先ほどの計算例でも使用した賃金センサスを基礎収入にして金額を計算します。
また、パート主婦で仕事と家事の両方に影響がある場合は、金額が大きいどちらか一方で逸失利益を請求します。
学生・子ども
後遺障害が原因で将来の仕事の選択肢が制限される場合は、逸失利益の請求が可能です。
この場合、基礎収入には賃金センサスを使用し、労働能力喪失期間は年齢ではなく、18歳または22歳から67歳で計算をします。
また、アルバイトをしていた高校生、大学生が後遺障害でバイトを辞めた場合は、その分の逸失利益も請求できる可能性があります。
高齢者
仕事をして収入がある場合、家事に影響がある場合は、高齢者でも逸失利益を請求することが可能です。
この際、労働能力喪失期間は「平均余命×1/2」で計算します。
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逸失利益は、後遺障害等級、年齢、肩書き、収入など、さまざまな事情から適切な金額を決めていきます。保険会社から提示される逸失利益の金額が、あなたにとって適正かどうか、きちんと見極めることが重要ですよ。
まとめ
逸失利益は、正しく計算して示談交渉をすることで増額できる可能性があります。
逸失利益の増額交渉が上手くいき、示談金の合計額が何倍にもアップすることもあります。
計算や交渉は複雑ですので、ご自身でするよりも弁護士に相談したほうが良い結果に繋がりやすいでしょう。
交通事故診断を通じてミスターリードがご案内している弁護士なら、交通事故被害に精通しているので、逸失利益の計算も安心して任せることができますよ。
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逸失利益は、将来、後遺障害が原因で経済的に困ることがないように請求するお金です。
つぎは、冒頭ですこしお伝えした、逸失利益が示談交渉で重要な理由を詳しくご説明します。