交通事故の裁判。民事と刑事の違い
交通事故には、「民事裁判」と「刑事裁判」という2種類の裁判があります。
民事裁判は、事故被害者が加害者(保険会社)に対して損害賠償請求などを行う裁判です。
慰謝料の金額や過失割合などを裁判で争うことができます。
いっぽう、刑事裁判は、加害者の刑事罰を問う裁判です。
刑事裁判を提起できるのは検察官だけで、事故被害者が「刑事罰を与えたい」と思っても被害者が直接、刑事裁判を起こすことはできず、検察か警察に告訴する必要があります。
民事裁判の起こし方。訴訟提起の流れや費用

裁判の起こし方を確認していきましょう。
裁判をしたい時は、訴状などの書類を準備して裁判所に提出します。
請求金額やケガの程度などに関係なく裁判をすることはできますが、「加害者と示談していない」ことが条件です。
すでに示談済で慰謝料を受け取っている場合、特別な事情がない限り裁判を起こすことができませんのでお気をつけください。
訴状の内容
訴状に記載すること
- 原告(被害者)と被告(加害者)の氏名と住所
- 代理人となる弁護士などの住所(依頼している場合)
- 請求したい損害賠償額
- 交通事故の詳細
訴状は、民事訴訟を提起する原告(事故被害者)が訴える相手(加害者や保険会社)や内容を記入して裁判所に提出する文書です。
交通事故の損害賠償請求では、請求する金額や交通事故の詳細などを書きます。
「どういうできごとがあったか」、「なぜ、この金額を請求するのか」など、裁判をしたい理由をきちんと記載するようにしましょう。
また、損害があったことを証明する証拠書類(交通事故証明書、後遺障害診断書など)や、弁護士の委任状(弁護士に依頼する場合)なども必要です。
これらを裁判費用(印紙や予納郵券)と一緒に裁判所に提出します。
訴状を地方裁判所または簡易裁判所に提出
訴状を作成したら、被害者(もしくは加害者)が住む都道府県、または交通事故現場の都道府県にある裁判所に提出します。
請求金額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円超の場合は地方裁判所と、金額によって訴状を提出する裁判所が変わりますのでご注意ください。
また、請求金額が60万円以下の場合は、通常よりも短期で裁判が終わる少額訴訟も選択できます。
軽度の物損事故や人身事故で、被害者自身で裁判を起こす場合などに少額訴訟が良いこともあります。
裁判の費用
裁判費用(訴訟提起の手数料)の支払いは印紙で行います。
損害賠償請求訴訟の場合、被告に請求する金額によって必要な金額が異なります。
請求金額 | 裁判費用 |
---|---|
100万円以下 | 10万円増えるごとに 1,000円上がる |
500万円以下 | 20万円増えるごとに 1,000円上がる |
1,000万円以下 | 50万円増えるごとに 2,000円上がる |
請求金額が100万円の場合は1万円、500万円なら3万円、1000万円なら5万円が裁判費用です。
金額の分だけ印紙を購入し、訴状に貼り付けて提出すれば裁判費用を支払ったことになります。
印紙は郵便局やコンビニなどで販売されている収入印紙で問題ありません(裁判に必要な金額は、コンビニでは在庫がない可能性があります)。
また、弁護士に依頼した場合は別途弁護士費用が必要です。
弁護士費用は、着手金や成功報酬などを賠償金額が決まった後に支払うケースが多いです。
具体的な金額は事務所ごとに異なりますので、弁護士に依頼する前に確認しておきましょう。
なお、裁判の際も弁護士費用特約を使えますので、加入している方は弁護士費用特約を使って裁判をしましょう。
交通事故の裁判。判決までの流れ
次に裁判が始まってから解決までの流れを確認していきましょう。
和解で解決することも判決まで解決しないこともあり、解決のタイミングは人によって異なりますが、基本的には次のような流れで裁判が進んでいきます。

第1回口頭弁論(訴状を提出して1〜2ヶ月後)
訴状を提出してから1ヶ月程度で裁判所から連絡があります。
裁判が行われる場合は、その際に「第1回口頭弁論」の日時が伝えられます。
第1回口頭弁論が行われるのは、訴状を提出して1〜2ヶ月後です。
裁判が始まるまでに弁護士との打ち合わせや、診断書や後遺障害の等級認定結果などの証拠資料の再確認を行い、裁判の準備をします。
第1回口頭弁論では、原告側と被告側が、裁判官がいる法廷でお互いの意見や主張を言い合います。
期日(1ヶ月に1度)
第1回口頭弁論が終わった後は、期日が設けられます。
期日とは、口頭弁論の続きを行う時間で、1ヶ月に1回程度、1回30分〜1時間ぐらいで行われます。
日時は裁判所が指定します。
第1回口頭弁論の後は、公開の法廷ではなく裁判所内の会議室で行われることが多いですが、同じようにお互いの意見や主張を繰り広げ、相手方が反論をしてきたら、次回までに新しい証拠を用意して、自分たちの主張の正当性を訴えていきます。
裁判官は、原告と被告の主張や過去の裁判例を踏まえ、妥当な慰謝料や過失割合を判断していきます。
和解勧告
裁判官は判決を下す前に和解案を提示する(和解勧告)ことがあります。
和解内容は判決内容と変わらないケースも多く、早く裁判を終わらせたい場合などは和解を選択したほうが良いこともあります。
弁護士に判決の見込みを聞くなどしながら和解するか決めるのが良いでしょう。
なお、民事裁判の場合、事故被害者は毎回必ず裁判所に出廷しなくても問題ありません。
期日は弁護士に任せても大丈夫です。
判決(裁判を起こしてから約1年)

和解しなかった場合は、尋問(証人として被害者や加害者、目撃者などが出廷して裁判官の面前で双方代理人や裁判官からの質問に答える)が行われます。
裁判官が判決を決めるにあたって、最終確認を行う場のようなものです。
尋問から判決までの間に、もう一度和解案が提示されることもあり、それでも和解が成立しないと、判決期日に判決が下されます。
判決内容に納得できない場合は2週間以内であれば控訴をすることができ、原告または被告のどちらかが控訴すると控訴審が行われます。
控訴がなかった場合は、その時点で裁判が終了し、判決が確定します。
加害者側が任意保険に加入している場合などは判決で下された賠償金額が支払われます。
加害者が任意保険未加入だった場合は、強制執行の手続が必要になることもあります。
裁判が終わるまでにかかる期間
地方裁判所での裁判では、訴訟提起から判決までの期間は1年程度だと言われています。
ただし、裁判の進み方で期間は大きく変わり、早めに和解した場合は半年程度で終了することもあります。
いっぽうで控訴をすると裁判が終わるまでに何年もかかる可能性があります。
交通事故の慰謝料請求で裁判をするなら、示談で解決するよりも1年程度は時間がかかることを覚悟し、「それでも裁判で争いたい」という強い気持ちが必要です。
交通事故の慰謝料は裁判で争ったほうがいい?
「示談交渉で保険会社が希望する金額を認めてくれない場合、時間かけて裁判したほうがいい?」
希望金額じゃなくても示談したほうがいいのか、納得いくまで裁判で争ったほうがいいか迷っている方に交通事故の裁判に関する興味深いデータをご紹介します。
弁護士白書2018年版に掲載されている統計によると、交通事故での損害賠償請求の裁判件数は年々増えていて、2017年は2007年の2.5倍に増加しています。
この10年の間で交通事故の発生件数は年々減っています。
つまり、以前に比べて「後悔しないために行動しよう」と考える事故被害者の方が増えているのかもしれません。

- ※「弁護士白書 2018年版」および警察庁交通局発表「平成30年中の交通事故の発生状況」参照
交通事故被害で裁判をするメリット
交通事故の慰謝料請求で裁判を行うメリットは、受け取る賠償金額が上がる可能性があることです。
「裁判基準の慰謝料を受け取りたい」、「保険会社が逸失利益を認めない」など、示談交渉を重ねても希望金額とのズレが大きい場合などは、裁判で争うことを考えましょう。
損害賠償請求の訴訟を行うことも事故被害者に認められた選択肢です。
ただし、裁判をすれば必ず賠償金が増額したり、過失割合の変更が認められたりするとは限りませんので、十分考えてから選択することをおすすめします。
裁判で賠償金が増額する可能性がある一方で、保険会社の提示額が示談交渉の時よりも下がり、これが裁判で認められて「裁判をしたら賠償金が減ってしまった」という事態も起こり得ます。
また、先ほどもご説明したとおり、裁判をすると賠償金の受け取りが1年程度遅くなり、その間の生活費の負担が苦しくなることもあります。
リスクを理解した上で裁判をするか示談で終わらせるか判断しましょう。
また、自分で示談交渉していた場合は、裁判することを決める前に、一度弁護士に相談してみてください。
交通事故に詳しい弁護士は交渉の引き出しを多く持っていて、被害者本人や自分の保険会社が示談交渉した時より賠償金が増額されることも珍しくありません。
相手保険会社も裁判は避けたいと考えているので、「この金額を支払ってもらえないなら裁判を行う」と弁護士が交渉することで増額に応じるケースもあるようです。
弁護士が交渉しても希望する慰謝料や過失割合を認めてもらえない時に、裁判をするか考えましょう。
Mr.リードからあなたへ
時間をかけてでも裁判するべきか、示談交渉で終わらせて早く事故以前の生活に戻るべきか、自分が納得できるほうを選びましょう。
後悔をしない判断をすることが大切。
「裁判をしたら希望金額が認められるか」などの見込みを弁護士に聞くと後悔のない選択ができるかもしれません。
裁判で納得のいく結果を勝ち取るには交通事故被害に詳しい弁護士の力が必要です。
裁判をするべき迷っている方は、まずは弁護士に相談してみましょう。
交通事故診断からも相談できますので、ぜひご活用ください。
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